フリーランスと個人事業主、法人との違いは?
起業するときには、フリーランスで個人事業主として働くか、それとも法人化するか、ふたつの選択肢があります。
こちらでは、フリーランス、個人事業主、法人の3つの違いを解説します。それぞれにメリットとデメリットがあるため、自分のビジネススタイルにあわせて働き方を選んでください。
フリーランスは個人事業主の一形態
フリーランスは個人事業主の一形態で、両者とも個人で事業を営むのは同じです。
個人事業主という言葉は、税務上の区分のひとつです。税務署に開業届を提出すると、個人事業主としてみなされます。
開業届を提出しなくても罰則はないものの、届け出をすると青色申告ができます。確定申告で年間65万円の控除を受けられたり、屋号で銀行口座が開設できたりと、さまざまなメリットがあります。
これに対してフリーランスは働き方を示す言葉で、税務上では個人事業主と同じくくりに分類されます。
開業届の提出にかかわらず、特定の会社や団体に所属せずに仕事を請け負う人は、フリーランスと呼ばれます。自分で契約先や仕事を選び、自分のスキルや知識を活かして仕事ができるのが魅力です。
フリーランスとして活躍している職種は、主に以下のとおりです。
・ITエンジニア
・Webデザイナー
・ライター
・コンサルタント など
法人とは
法人とは、法律によって人と同じ権利や義務を認められた組織のことをいいます。
法人には、さまざまな形態があり、たとえば仕事を請け負って収益を上げ、社員や株主に利益を分配する法人は、営利団体と呼ばれます。株式会社や合同会社は、営利団体に該当する法人です。
個人事業主と法人の違いは、主に次の3つです。
・設立の手続き
・国や自治体に収める税金
・社会から受ける信用度
起業する際に法人を設立するには、資本が必要です。個人事業主よりも法人のほうが信頼されやすいため、仕事をするうえで有利だと考える人は多いでしょう。
はじめて独立して起業するなら、比較的難易度が低い個人事業で始めて、事業が軌道に乗った段階で法人化することも可能です。ただし、個人から法人化するにはメリットとデメリットの両方があるため、慎重な判断が求められます。
【4つのメリット】フリーランスが法人化で得られること
フリーランスが法人化すれば、どんなメリットが得られるのか見ていきましょう。
節税効果に期待
フリーランスから法人化する最大のメリットは、税金の負担を減らせることです。
法人化すると、支払うべき税金が所得税から法人税に変わり、税率が低くなります。そのほかにもメリットがあるため、どんな節税効果が期待できるか、それぞれ解説していきます。
役員報酬を経費に計上できる
フリーランスから法人化すると、役員報酬を経費に計上できます。
個人事業では、自分への給与は所得税の課税対象です。事業の収益が大きくなるほど税金額が高くなり、稼いだ分だけ負担が大きくなるのが実情です。
これに対して法人化すれば、自分や家族に対する報酬に給与所得控除を適用できます。控除額の分だけ全体の所得を減らすことができ、事業にかかる税負担の軽減につながります。
たとえば、課税所得が0円であれば、法人税はかかりません。また住民税の負担も軽くなるので、かなり節税効果が高いといえるでしょう。
また、役員への退職金も法人の損金として計上できます。個人事業の場合は、役員に対する退職金を必要経費に計上できません。退職金を支払い、さらに高い税金が課されるため負担がより大きくなります。
ところが法人化すれば役員の退職金を損金計上ができ、全体所得を減らせるので、節税に役立ちます。
消費税の納付を2年間免除される
法人化すると消費税の課税事業者となるタイミングを2年間先延ばしにできるため、この期間の税負担が軽くなります。
基本的に、課税売上高が1,000万円を超える課税事業者には、消費税の納税義務が発生します。その分支出が増えますが、納付の基準は2年前の売上高です。
個人と法人では別人格と解釈されるため、法人化すると2年前の課税売上高は0円となり、消費税の支払い義務が免除されます。収益を上げていても消費税を支払う必要がなく、支出を抑えられるのは大きな強みでしょう。
とはいえ、消費税の免除事業者の適用にはいくつかの条件があるため、最初に確認しておくと安心です。
経費の幅が広がる
経費の幅が広がるのも、個人から法人化するメリットのひとつです。
個人事業の場合は、家庭用と事業用の経費を切り離すことが難しく、計上できるものが限定されがちです。たとえば、自宅や自家用車を仕事と兼用して使っていても、これらにかかる支出は家庭用としてみなされることが多く、事業所得の控除対象にできません。
これに対して法人は、事業活動に支出したものをすべて経費として計上可能です。自宅兼事務所で必要になる水道光熱費、仕事に使う個人の自動車のガソリン代やメンテナンス費用、生命保険料なども経費に計上でき、法人所得を減らして節税が実現します。
長期間に渡って欠損金の繰越控除を受けられる
個人事業から法人化すると、欠損金の繰越控除可能期間を延長できます。
事業は、経営状態が悪化して赤字になることがあります。その場合、赤字を繰り越して翌年以降の所得と相殺します。しかし個人事業は、欠損金の繰越期間が翌年以降3年間しか認められません。
法人の場合は、欠損金の繰越控除可能期間が翌年以降10年間まで認められます。事業年度によっては最大9年間にわたって欠損金の繰越控除を受けられるので、節税効果が高まります。
社会的信用を獲得
フリーランスが法人化すれば会社役員になり、社会的な信用が上がるのがメリットです。銀行から融資を受ける際にも、法人化している方が審査で有利になるでしょう。取引先から見ても、フリーランスと法人では印象がだいぶ違います。
事業規模をさらに拡大したい場合には、取引先や金融機関からの信用を得ることが大事です。
社会保険に加入
個人事業主は厚生年金や健康保険に加入することができないため、老後に受け取れる年金額が少なめです。
これに対して、法人の役員ならサラリーマンと同じように厚生年金と健康保険に加入できます。これにより、将来受け取れる年金が増えるのもメリットです。
有限責任にできる
仕事で負った負債を有限責任にできるのも、法人化の大きなメリットです。
個人事業の場合は、事業主は経営が悪化したことで発生する負債すべてに返済義務を負います。たとえば、仕入れ先への未払い金や金融機関などからの借入金、滞納している税金は、自分の個人資産から返済しなくてはいけません。
これに対して法人の場合は、出資金の範囲内での責任で済みます。経営悪化で法人が破綻しても、事業主個人としては返済義務がなく、個人資産が差し押さえを受けるリスクはありません。
ただし、中小企業の場合は個人保証に注意が必要です。これは金融機関が借入時に、社長個人が連帯保証人となることを求めるものです。社長が法人の借入金の連帯保証人となっているときは、個人事業と同様に事業主に返済義務が発生します。
【2つのデメリット】フリーランスが法人化で注意すべきこと
フリーランスから法人化する際に、次のような点で注意が必要です。
設立に費用がかかる
法人を設立する際には、法務局で手続きを行わなければなりません。その際に、登記代や印紙代などのコストが必須です。株式会社なら最低でも設立時に24万円程度かかるものと捉えておきましょう。
また、設立手続きを行うのには、ある程度の知識が必要で手間もかかります。自分で行うのが難しい場合には司法書士や行政書士に依頼することになるでしょう。その場合には、さらに10万円程度の費用がかかります。
登記可能な事務所を借りる必要がある
法人の設立登記の際には、所在地を記載しなければなりません。その際に、登記可能な事務所を借りる必要があります。初期費用がかかり、毎月の賃料も支払わなければならないため大きな負担になるでしょう。
自宅を所在地として法人登記することもできますが、デメリットが多く、あまりおすすめできません。法人登記で自宅を所在地にすることに関して、詳しくはこちらをご覧ください。
自宅の住所でも法人登記!3つのデメリットと最適なオフィスを紹介!
フリーランスが法人化するベストなタイミングは?
フリーランスから法人化する判断基準のひとつは年収額です。では、基準となる額について確認していきましょう。
課税所得が800万円を超えたとき
課税所得がおおむね800万円を超えるほどになると、法人化することで税金を抑えることができます。
個人に課税される所得税は累進課税制度が採用されており、所得が高い人ほど税率が高くなります。課税所得が800万円なら23%。900万円以上なら33%です。
一方で、中小法人に課税される法人税の税率は、800万円以下なら15%。それ以上なら23.2%です。800万円を超える利益が得たとしても税率が高くなることはありません。
加えて800万円以下は、本来なら税率19%ですが、租税特別措置法により15%に抑えることができます。
売上高が1,000万円を超えたとき
売上高が1,000万円以下の場合は消費税の納税義務はありませんが、1,000万円を超えた年の2年後から納税しなければなりません。
一方で、新規で設立した法人は、一定の条件のもとで1年目と2年目の消費税は免除されます。そのため、売上が1,000万円を超えた年の2年後に法人化することで、消費税の納税義務を2年先送りすることができます。
【6つの流れ】フリーランスから法人化するには!
フリーランスから法人化する際の手続きを解説していきます。
設立手続き
最初に社名を決めて定款を作成しましょう。定款には事業内容などを記載します。それから出資金を振り込みます。
設立登記の申請
定款と資本金振り込みを行った通帳のコピー、印鑑証明、申請書などを持参し、法務局で設立登記の申請を行います。設立登記が問題なく完了すると、登記事項証明書が交付されます。
申請書には会社の所在地を記載しなければなりません。自宅を所在地にすることも可能ですが、賃貸物件の場合には法人登記できない場合もあるので注意が必要です。
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法人口座の作成
銀行で法人口座を開設しておきましょう。法人口座は、主に取引先からの報酬の振込先として使用します。
最近では詐欺などの犯罪で法人口座が悪用されるケースもあるため、審査に時間がかかることが多いです。また、法人口座開設の際には登記事項証明書が必要になるため、覚えておきましょう。
役員報酬の設定
役員報酬は事業年度単で決める仕組みですが、新規で設立した法人の場合には、設立後3ヶ月以内に役員報酬の金額を決めなければなりません。
決めると、事業年度途中での変更はできないため、無理のない金額に設定しましょう。また、役員報酬の金額は社会保険料の金額に影響することを考慮する必要があります。
諸官庁へ届け出
税務署や都道府県の税務事務所で税金関係の届け出を行わなければなりません。個人事業主ではなくなるため、廃業手続きが必要です。それと同時に法人設立届出書を提出します。
業種によっては、ほかにも諸官庁への届け出や手続きなどが必要になる場合があります。
社会保険の手続き
年金事務所に行って、厚生年金と健康保険への加入手続きを行いましょう。従業員がおらず、代表者のみの法人でも、その代表者は社会保険への加入義務があります。
まとめ
フリーランスから法人化することで、社会的信用度が増し、社会保険に加入できるなどのメリットがあります。課税所得が800万円以上なら、税金も安くなる可能性が高いです。
ただし、設立に費用がかかり事務所も必要になります。所得によっては税金が高くなってしまうこともあるかもしれません。法人化した方がお得かどうか、総合的に見て判断しましょう。