農業を営むには、一般的には個人事業主として開業するか、法人(会社)を設立する必要があります。農業を営む法人は農業法人と呼ばれ、法人化によって税制面や事業承継などでのメリットを受けられます。農業法人にも種類があり、設立条件などを押さえた上で適切なものを選ぶことが大切です。
本記事では、農業法人の概要や種類、メリットとデメリット、設立の流れなどを解説します。農業で起業を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
農業法人とは?
そもそも農業とは、土地を活用して有用な植物の栽培や動物の飼育を行う生産業のことで、農業法人は農業を営む法人を指します。施設園芸や畜産を営む法人も含めた総称として、農業法人という言葉が使われます。
なお、農業法人は「学校法人」「医療法人」とは異なり、法的に定められた名称ではなく、任意で使用されています。
農業法人の形態
農業法人は、農業協同組合法が定める「農事組合法人」と、会社法が定める「会社法人」という2つに大別されます。また、農地法が定める一定の要件を満たした場合、「農地所有適格法人」になることが可能です。
なお、平成28年(2016年)4月1日施行の改正農地法により、それまで農業生産法人と呼ばれていたものは「農地所有適格法人」の呼称へ変更されています。
会社法人
会社法人とは、利益を上げることを目的とし、会社法に基づいて設立された法人形態のことです。一般的な「株式会社」の他に、「合同会社」「合資会社」「合名会社」といった形態があります。
会社法人は、日本国内に住所を置く15歳以上の日本人であれば、原則誰でも設立可能です。外国人の場合は、永住権所持者などが設立できます。
農事組合法人
農事組合法人とは、自ら農業を営む個人または農業に従事する個人の共同組織で、農業協同組合法(農協法)に基づいて設立された法人のことです。営利を目的とする会社法人と異なり、農事組合法人では「農業生産について協業を図り、組合員の共同の利益を増進すること」を目的としています。
農事組合法人が、農業に従事する個人が3人以上発起人となり、共同で設立することが条件です。農事組合法人の構成員は原則として農家限定で、事業内容も農業に関する事業に限られます。
農事組合法人はさらに、共同利用施設の設置や農作業の近代化などを目的とした1号法人と、自ら農業経営や関連事業を行う2号法人とに分かれます。
農地所有適格法人とは?
農業法人の中で、農地法が定める一定の要件を満たし、農業経営を行うために農地を取得できる農業法人のことを「農地所有適格法人(旧農業生産法人)」と言います。
例えば、法人として田んぼを所有し、水稲栽培に取り組むためには、農地所有適格法人の要件を満たす必要があります。
農地所有適格法人の基本的な要件として、以下の項目が定められています。
- 農地のすべてを効率的に利用するための営農計画を持っていること
- 農地取得後の農地面積の合計が原則50a(北海道は2ha)以上
- 周辺の農地利用に支障がないこと
また、法人の適格要件は、以下の4つです。
- 法人形態要件(株式会社(公開企業でない)、農事組合法人、合名会社、合資会社、合同会社のいずれかであること)
- 事業要件(主たる事業が農業であること)
- 議決権要件(総議決権の過半数が農業関係者で構成されること)
- 役員要(役員の過半数が法人の行う農業に常時従事する構成員であること)
法人が農業を営むにあたり、農地を所有(売買)しようとする際には、必ず上記の要件を満たす必要があります。
ただし、農地を利用しない農業を営む場合や、農地を借りて農業を営む法人の場合は、必ずしも農地所有適格法人である必要はありません。
その他の農業法人
会社法人形態の農業法人の中には、上記の農地所有適格法人ではないその他の農業法人も存在します。例えば、養鶏や養豚などの畜産や、観賞用植物、きのこ類などを育てる施設型農業などは、農業法人を設立しなくても参入できます。
また、農地が必要な農業であっても、農地を賃借して農業を営む場合には、農地所有適格法人の認定は不要です。ただし、各自治体の農業委員会から許可を得るなど、条件が付いている場合もあるため事前に確認しておきましょう。
農業法人のメリット
農業法人として農業を営むことで見込まれるメリットとしては、以下が挙げられます。
【経営上のメリット】
- 経営管理能力や対外信用力の向上
- 人材の確保・育成
- 農業従事者の福利厚生面の充実
- 経営継承の円滑化
【制度上のメリット】
- 役員報酬を給与所得とすることによる節税効果
- 融資限度額の拡大
- 農地の取得に関する負担軽減
農業法人として経営責任の自覚を持ち、経営者としての意識向上や経営管理のスキルアップなどが期待できます。また、設立登記や経営報告などにより、金融機関や取引先に信用力を示すことが可能です。
企業としてのアピールができるため、労働環境の整備によって優秀な人材の確保や育成にも役立つでしょう。制度上では、節税などの税制面での優遇や、農業経営基盤強化資金の利用などによる融資限度額の拡大、農地取得に関する負担の軽減なども期待できます。
農業法人のデメリット
一方、農業法人の設立によって考えられるデメリットとしては、以下の点が挙げられます。
- 設立コストがかかる
- 社会保険料など経営負担が増える
- 簡単に解散できない
法人設立には、定款の認証と登記申請で最低でも20万円かかります。また、法人の会計処理は複雑で、通常は税理士や会計士に監査や顧問を依頼するため、その費用も別途発生します。
また、会社法人あるいは農事組合法人で確定給与支払制を採択した場合、社会保険へと切り替わるため、従業員数に応じた負担が大きくなる可能性があります。保険料の半分は法人が負担しなければならない上、従業員が1人以上いる場合、労災保険と雇用保険も強制適用です。
さらに、解散や廃止の場合、すべての法人財産を精算する必要がある上、手続きに2ヶ月以上を要します。また、専門家などの指導も必要となるなど、個人事業主に比べて事業をたたむ際の手間が多い点も考慮する必要があるでしょう。
農業法人設立の手続きの流れ
実際に農業法人を設立する手続きの流れを見ていきましょう。農業法人を設立するにあたって、まずはどのような法人形態にするのかを決めます。
家族経営では株式会社が一般的ですが、集落営農などの法人化では農事組合法人も選択肢に入ります。将来的な経営の見通しも考慮して、長期的な視点をもって形態を選ぶことが大切です。
ここでは、農業法人の形態で最も多い株式会社の手続きを見ていきます。おおまかな流れは以下の通りです。
- 会社基本情報の決定
- 定款の作成・認証
- 出資の履行と設立時役員の選任
- 設立登記・諸官庁へ届け出の提出
まとめ:農業で起業するなら農業法人の設立も検討しよう
農業法人は、営利目的で農業を行う場合の法人形態です。会社法人と農事組合法人に加えて、農業所有適格法人などの種類があり、選ぶべき形態はケースバイケースで変わります。
個人ではなく法人化して農業を営むことにより、税制面での優遇や社会的信用性のアップなどのメリットが見込めます。ただ、法人設立の初期コストや会計処理を外部専門家に依頼する費用などが別途発生する上、解散する場合も個人より時間や手間がかかる点に注意が必要です。長期的な視点で将来目指す形態をイメージしながら、農業法人化を検討しましょう。
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