看護師資格を保有する人の中には、雇われる以外の選択肢として、起業を考える人もいるでしょう。独立開業の方法は多数あるので、将来のキャリア構築とともによく検討する必要があります。
本記事では、看護師免許を活かせる起業方法や注意点について解説します。実際に起業する前のステップについても紹介しますので、看護師の資格や経験を活かした働き方を検討するためにぜひお役立てください。
看護師免許を活かせる起業の選択肢
看護師免許を活かした起業の選択肢は幅広く、実際に資格を使って起業する人も増加傾向にあります。ここでは看護師の起業の選択肢を具体的に紹介しますので、興味がある分野や実現可能なジャンルを見つけるために参考にしてください。
看護師の訪問看護ステーション起業
看護師の起業で最もメジャーなケースが、訪問看護ステーションです。訪問看護ステーションとは、自宅で療養生活が送る患者に対し、医師やケアマネジャーなどと連携して看護ケアの提供や療養のサポートといった訪問看護サービスを提供する仕事です。
訪問看護ステーションの開設には、看護師もしくは保健師が管理者に就き、常勤で2.5人の看護師を配置している必要があります。開業には都道府県知事または市長からの指定が必要ですが、新型コロナの影響や在宅医療の普及といった社会的背景を受けて訪問介護のニーズが高まっている近年、看護師資格を持つ人にとって起業しやすい方法といえます。
デイサービス(通所介護)として看護師で独立起業
看護師経験のある場合、介護分野でデイサービス(通所介護)で開業するという選択肢も有用です。在宅における介護指導の普及に伴い、看護業界とともに需要が高まっています。
デイサービス自体は看護師の資格は不要ですが、人員配置基準として1人以上の看護師を設置するか、バイタルチェックなどの健康管理を行える状態を維持している必要があります。そのため、看護師免許を保有する人開業しやすい傾向があります。
開設には通所介護指定も必須です。介護施設での勤務経験や知識がある方、介護士とつながりがある方はさらに挑戦しやすいでしょう。
看護師のフリーランス起業
看護師としてフリーランスで働くという選択肢もあります。医療業界では長年従事者不足が叫ばれており、新型コロナの影響によってさらに拍車がかかっている状態です。
1つの施設に正社員として勤める以外にも、複数の施設で柔軟に働くフリーランス看護師の需要も高い傾向があります。具体的には、常勤職員が休みの時間帯にヘルプとして入る、仕事がない日に学校や企業での定期検診などに参加する、といった働き方です。
助産師資格があれば助産院
看護師免許だけでなく、助産師資格を保有していれば助産院の開業も可能です。ただ、開業には助産師資格の取得と、助産師として5年以上の職務経験、さらには分娩件数200件以上といった細かな条件を満たす必要があるため、他の起業よりもハードルは高くなっています。
長期的な計画を持って、助産院を作り上げたいと考える人は、検討する価値があるでしょう。
美容分野の民間資格と組み合わせた起業
看護師免許以外に、他の民間資格と組み合わせて美容分野での起業も視野に入ってきます。例えば、アロマセラピストを取得してアロマセラピスト講師として開業する、マッサージを提供する美容サロンを開設する、といった方法があります。
美容系サロンであれば、自分1人でも起業でき、自宅サロンでスペースの費用を節約することも可能です。美容に興味があり、その道を極めていきたい人に向いています。
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看護師が起業する流れと必要なもの
ここで、看護師起業の流れと必要なものを確認しておきましょう。看護師に限らず、独立開業の際には事前のリサーチや情報収集や事業計画立案、資金調達、開業手続きなど、多くの手順があります。また、スムーズな開業には入念な準備は必須です。
必要なものを揃えて、開業までの全体像を把握した上でプランニングを行いましょう。
看護師起業の流れ
看護師起業には、個人事業主や法人などの形態がありますが、いずれの場合でも独立して起業するまでの流れはさほど変わりません。主に以下の流れで進めていきます。
- 情報収集リサーチ
- 事業計画プランニング
- 資金調達
- 開業手続き
開業するにあたって、事前の準備段階は事業をスムーズに立ち上げられるかどうかを左右する重要なステップです。まずは、情報収集やリサーチを入念に行い、どういった顧客層に対してどのようなサービスを提供するかを決定します。
市場の状況や競合他社といった情報は、現実的な事業計画を作成するために必要です。プランニングの段階で、客観的に自分の事業を捉え、収支を事業計画書に落とし込む必要があります。
必要に応じて開業資金の調達を行います。公的金融機関や銀行など融資先の選択肢は多数ありますが、融資形態や審査条件、金額などの条件を考慮しつつ、返せる範囲で相談しましょう。創業間もない場合は、日本政策金融公庫などの創業融資もおすすめです。
開業手続きの方法は、個人事業主か法人かで変わります。個人事業主の場合、基本的には税務署への開業届出書の提出のみで完了します。法人の場合は、登記や指定申請を受けるまでにある程度の時間を要するため、半年から10ヶ月ほどの期間を考慮して動きましょう。
看護師起業に必要なもの
看護師起業に必要なものとしては、厳密には事業内容によって異なりますが、上記流れを踏まえた上で原則として必要なものとしては、以下が挙げられます。
- 開業届け(法人設立手続き)
- 確定申告(eTax)の準備(個人事業主の場合)
- 開業資金
- 事業に応じた資格
- 仕事に必要な道具・備品
- 人員
個人事業主の場合、確定申告の準備も進めておくと、申告時期の作業がスムーズです。eTaxでの申告は事前手続きが必要ですので、管轄の税務署にて確認しましょう。
事業に応じた資格の取得も、事業前に済ませておく必要があります。訪問看護ステーションの管理者であれば、看護師免許の他に保健師の資格が求められるので、計画的に取得の準備を進めましょう。
また、事業所にて人を雇う場合は、人員採用や教育研修も必要です。なお、従業員は社会保険に加入する義務があるため、加入手続きも忘れずに行いましょう。
看護師起業に関する注意点
看護師資格を保有する人が、起業する上で知っておきたい注意点を紹介します。
保険加入や税金について理解する
独立起業するにあたって、法律や税金といった知識は必須です。例えば、訪問看護ステーションや介護施設、助産院といった医療施設を立ち上げる場合、賠償責任保険の加入義務があります。
利用者やその家族に怪我をさせた、物損被害を与えてしまったなどの際に、管理者側が賠償責任を負うことが法律で定められており、その補償としての保険加入が義務付けられています。
また、経費や売上を記録する帳簿や税金の知識も大切です。個人事業主でも確定申告を行わないと脱税とみなされ、事業継続が困難となる場合も考えられます。書籍で勉強するか、税理士に相談するなどして必要な知識を学んでおきましょう。
法人と個人事業主どちらにするかよく考える
法人と個人事業主どちらにするかは、起業の選択肢によっても異なります。会社を立ち上げ法人経営者として独立すると、開業看護師などと呼ばれることもあります。看護ステーションやデイサービス、助産師といった開業の場合は法人を作るケースが多いでしょう。
一方で、個人事業主とは、開業届を提出し事業を運営している人全般を指します。正確な定義では「継続的に業務を継続していること」が条件であり、単発で仕事を受けるフリーランスとは別という認識があります。
看護師を含む個人が事業を立ち上げる際には、スモールスタートが前提です。美容サロンなどでは個人事業主からスタートし、法人化を目指すとスムーズでしょう。
起業で利用できる支援について知っておく
いずれの業態であれ、事業のスタート時には初期費用が必要です。先述した訪問看護ステーションやデイサービスのような開業では、初期費用が高額な傾向があるため、支援や融資についても知っておく必要があります。
日本政策金融公庫では、中小企業や独立起業者に対するさまざまな融資制度を提供しています。新創業融資制度では、開業から税務申告2期までが対象で、最高3,000万円の融資を受けられます。また、新規開業資金制度では、設備資金や運転資金を借り入れることが可能です。
その他にも、クラウドファンディングにて支援を募るという方法もできます。高い需要のある看護師関連の開業は多くの人の注目を集められる可能性が高く、検討してみると良いでしょう。
看護師の起業前のステップとして役立つ仕事例
「起業に興味があるが、いきなり独立開業はハードルが高い」という場合は、看護師としての仕事を続けながらも、資格を活かして収入を得られる働き方を考えてみましょう。
看護・医療系に特化したWebライター
在宅でできるWebライターは、看護師の知識や経験を活かせる仕事の1つです。パソコンとインターネット環境があればすぐに始められ、場所代や設備費用などの初期費用はほぼかかりません。看護師免許が医療系の専門知識があることの証明となるため、特化型ライターとして高単価の案件を受けられる可能性があります。
ライティング業務以外にも、記事の監修者として参加できる場合もあり、さらなる報酬アップが見込めます。専門家としての質を上げるために、看護や医療全般における知識や法律について学びながら、プロ意識を持って取り組むことが大切です。
コンサルタント・カウンセラー
コンサルタントやカウンセラーとしての活動は、看護師の知識や経験を活かした起業形態としても人気です。コンサルティングやカウンセリング、セラピーなど、相談やお悩みを聞き、提案を行う仕事は、オンライン上でも完結できるため、時間や場所によらず取り組みやすいでしょう。
顧客となるターゲット層によって、さまざまな業態が考えられます。例えば、同じ看護師に対して転職や将来のキャリア設計についてアドバイスを行う転職コンサルタントや、医療の専門知識や情報をもって企業や組織に対する提案を行う法人コンサルタントなどです。
現在は、コンサルタントのマッチングサービスも充実しており、未経験から始めやすい環境が整っています。ただし、看護師自体とは仕事内容が異なるため、学習や資格取得を通して知識を身につける必要があります。
週末プチ起業:カフェ・料理教室など
いきなり看護師を退職するのは不安な人は、週末だけ仕事をする「プチ起業」という始め方も選択肢の1つです。看護師で週末起業を経験した後、本格的に起業するために退職、独立する人は少なくありません。段階的に進めることで、大きな失敗を回避する対策も取れ、スムーズに事業を軌道に載せられるでしょう。
事業アイデアとしては、健康相談ができるカフェや、健康を意識した料理教室などが挙げられます。適切な場所を選ぶことで、地域の人の憩いの場として機能させることも可能です。
利用者にどのような需要があるのかを考え、自分の興味があることと組み合わせることで、やりがいや楽しみを感じながら黒字経営を実現できるでしょう。
まとめ:看護師資格を活かした起業で可能性を広げよう
看護師資格を活かした起業方法には、さまざまな選択肢があります。医療従事者の需要が高まっている現代、世の中に貢献できる働き方も多様化しています。看護師として理想とするキャリアを実現するためにも、起業を検討してみましょう。
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よくある質問
Q. 看護師から起業するために必要な心構えは何ですか?
起業では、やることが多く、意識すべきことも段階ごとにさまざまですが、まずは準備を入念に行うことが重要です。情報収集を丁寧に行い、事業計画やプランニング、開業資金集めなどを漏れなく行う必要があります。
やりたいことを明確にした上で、どういったニーズに対して価値を提供できるのかを考えれば、楽しみながら続けられるでしょう。起業の成功の形は1つではないので、ちょっとつまづいただけで諦めないことも大切です。
大変に見えるかもしれませんが、準備を徹底することで、スムーズに事業を立ち上げられ、軌道に載せることが可能です。1人だと不安な場合は、経験者や各専門機関に問い合わせるなどして、不安を解消しながら進めていきましょう。
Q. 週末起業は看護師に適していますか?
勤めながら起業できる「週末起業」という形態には、多くのメリットがあります。まず、勤務先からの給料を確保しながら起業に挑戦できるため、生活資金が途絶えるリスクを避けられます。
特に看護師の場合は、病院以外にも必要とされる現場が多く、派遣社員やパート、アルバイトなど柔軟な働き方が可能です。休みの日だけ起業した後、ある程度目処がたった段階で、正社員から派遣社員へと切り替えて起業への比重を増やしていく、というように段階的な移行をすれば、スムーズに独立開業できるでしょう。
Q. 看護師が起業するなら法人か個人事業主どちらがいいですか?
看護師に限らず言えることですが、個人が開業する際には小さく始める意識を持つと良いとされます。そのため、起業の経験がない人がいきなり法人設立を目指すよりも、個人事業主として独立する方が無難でしょう。
もちろん、訪問看護ステーションやデイサービスなど、業種によっては法人立ち上げが必須なケースもあります。個人事業主としてある程度の経験を積み、顧客を獲得した上で法人化を目指すことで、経験値の向上とリスク回避を両立させ、継続的な黒字経営を実現できるでしょう。