インキュベーション施設は、起業家やスタートアップ企業などの創業初期に必要な支援の提供を目的としたオフィス施設です。近年では自治体や大手企業もインキュベーションオフィスを手掛けており、注目を集めています。
この記事では、インキュベーション施設の定義やメリット・デメリットなどについて解説します。受けられる支援の内容やおおよその費用、自治体の施設例も紹介しますので、事業拠点として利用できる場所を探している企業の創業者や起業家の方は、ぜひ参考にしてください。
インキュベーション施設とは
インキュベーション施設とは、創業初期の企業や起業家の支援を目的としたオフィス施設です。事務所スペースやビジネスに関する相談やアドバイスなど、立ち上げ当初に不足しがちなリソースを補完するために開設されています。
インキュベート(incubate)とは、英語で「(生まれたての雛などを)保育する」ことを意味する単語です。ビジネス関連では、設立間もない会社や事業を支援・育成することを指して使われています。
自治体や商工会議所、大学などの公的機関が運営する拠点も増えており、全国規模で社会的な注目を集めています。
インキュベーターとは
インキュベーション施設の普及に伴い、インキュベーターと呼ばれる存在にもスポットライトが当たっています。インキュベーター(incubator)とは、育成する側のことで、起業家の卵やスタートアップ企業を支援する側のことです。
なお、インキュベーターと同様にビジネス支援や事業成長に関わる役割に、アクセラレーターがあります。両者とも創業初期の段階の起業家や企業に対して、早くからビジネスに役立つ機会を提供する立場です。
アクセラレーターはスタートアップやベンチャー事業を加速させる役割を果たします。期間限定でのサポートが中心で、立ち上げから一気に軌道に乗せることが目的です。一方、インキュベーターは、ビジネスモデルや企業組織の構築を主な目的としたアイデアの創出にフォーカスし、事務所や経営アドバイス、経理、人事など多岐にわたる支援を行います。
インキュベーション施設のメリット・デメリット
インキュベーション施設はメリットが多い反面、デメリットもあるため、両方を知った上で利用することが大切です。詳しく見ていきましょう。
インキュベーション施設のメリット
インキュベーション施設の主なメリットは、以下の項目です。
- オフィスの家賃や利用料が安い
- インキュベーター(マネージャー)の支援が受けられる
- 全国各地に施設がある
インキュベーション施設は、一般的なオフィスの賃料よりも低料金で利用できます。場所や広さにもよりますが、1ヵ月約3〜5万円と格安です。事務所やオフィスを新しく契約する場合の相場を考えると、コストを大幅に削減できます。自治体によっては賃料補助制度があり、適用されると半額以下で利用することが可能です。
他のレンタルオフィスやコワーキングスペースにはないメリットとして、インキュベーターによる幅広い支援が受けられることが挙げられます。インキュベーションマネージャーなどとも呼ばれる担当者が、事業計画や経営ノウハウ、会計・経理、人材採用などビジネスのあらゆる支援を利用できます。相談できる専門家がいることは、起業間もないタイミングにおいて心強いでしょう。
インキュベーション施設のデメリット
一方、インキュベーション施設のデメリットとしては、以下の点があります。
- 自由にスペースを使いにくい
- 申請手続きに手間がかかる
- 金銭以外の対価を要求される場合がある
インキュベーション施設の多くは賃貸で、スペースを好きに使いにくい場合が多く見られます。レイアウトの変更が可能な一般的な賃貸オフィスに比べて自由度は低めです。家具や間仕切りの入れ替えやアレンジ、高速ネット通信の新規契約など希望する設備を揃えることは難しいでしょう。
また、入居までの手続きが多く、手間や時間がかかります。正式に賃貸契約するまでに事前面接や審査などの手順がある上、多くの提出書類を揃える必要があります。
低料金で使用できる分、場合によっては金銭以外の支払いを求められることがあります。運営者側が起業家に対する投資とリターンを目的としている場合、ストック・オプションや事業成長後の投資確約などを対価として要求する場合があるので、契約内容をよく確認しましょう。
インキュベーション施設で受けられる支援概要
インキュベーション施設の最大のメリットでもある事業支援には、具体的に以下のような内容が含まれます。
- 事業計画や経営方針
- 事業進捗度の確認
- 課題認識の共有と解決策の考案
- 研究開発施設の提供
- 資金調達に向けたネットワーキング
- 人材獲得や組織構築のアドバイス
- 他起業家とのビジネスマッチング
インキュベーターと呼ばれる経営の知見を持つプロが、事業成功に向けて幅広く支援してくれます。
インキュベーション施設の入居期間
インキュベーション施設では、利用期間が原則1年と決まっています。ただ、具体的な契約機関は施設ごとに異なり、多くのオフィスでは3年〜5年ほど延長も可能です。1年ごとの更新申請が必要など、インキュベーションオフィスごとに異なるシステムで運営されています。
インキュベーション施設にかかる目安費用
インキュベーション施設にかかる費用は、運営者が公的機関か民間企業かで大きく異なります。公的機関が運営するオフィスは1㎡あたり2,500〜3,000円ほど、民間業者の場合は1㎡あたり約10,000〜15,000円が目安です。個室や固定席の数、スペースの特徴によっても費用は変わります。
自治体別インキュベーション施設
インキュベーション施設は全国に存在しています。ここでは、代表的な自治体によるインキュベーション施設を紹介します。
東京都認定インキュベーションオフィス
東京都では、2015年にスタートした「インキュベーション施設運営計画認定事業」により、一定基準を満たしたオフィスをインキュベーション施設として認定、運営しています。
23区内外、多摩エリアなど都内全域にわたって多数のオフィスが設置されています。都心のオフィスは主要駅から徒歩圏内とアクセスも良く、利便性が高いため人気です。
福島県のインキュベーション施設
福島県内には、13のインキュベート施設が開設されています。それぞれの地方で活動する起業家だけでなく、企業を検討中の段階でもインキュベーションマネージャーに相談可能です。
起業間もない人を対象としたセミナーも数多く開催されているため、情報収集にも役立ちます。
京都府のインキュベーション施設
京都の代表的なインキュベーション施設には、同志社大学による「D-egg」や、 京都大学連携型の「京大桂ベンチャープラザ」などがあります。地域に根ざしたベンチャー事業や中小企業の積極的な支援の一貫として運営されています。
ウェルネス事業を中心としたスタートアップ支援を中心に行う「クリエイション・コア京都御車」では、過去に利用した企業の多くが支援によりステップアップを果たしています。
大阪府のインキュベーション施設
大阪府には、公益財団法人大阪市都市型産業振興センターが運営する「大阪産業創造館」をはじめ、「イノハブ」などの行政によるインキュベーション施設が充実しています。「メビック扇町」は、クリエイターを中心にマッチングなどの支援を提供しています。
「クリエイション・コア東大阪」は、技術力が集結している大阪東部エリアのものづくり総合支援施設です。その他にも、民間企業が運営するインキュベーション施設も各地に設置されています。起業前のアイディア出しから起業準備、創業後のスタートダッシュまで各段階で必要な支援が受けられるよう工夫されています。
埼玉県のインキュベーション施設
埼玉県の各都市には、自治体など行政が手掛ける施設が多数あります。公益財団法人埼玉県産業振興公社が運営する「COCOオフィス」や、川口市の「彩の国ビジュアルプラザ インキュベートオフィス」などが代表例です。
和光市にある「和光理研インキュベーションプラザ」は、埼玉県と和光市、理化学研究所などが連携して運営するインキュベーション施設です。地域事業者による創業や事業拡大における総合的なサポートが受けられます。
インキュベーション施設向け補助金
インキュベーション施設に関する補助金は、各自治体や中小企業振興公社などで用意されています。多くの補助金はインキュベーション施設の整備や認定を目的としており、年ごとに設定されています。申請期限が短い場合が多く、応募条件が細かく決まっているので、インキュベーション施設への補助金を利用したいと考えている事業者や民間企業の担当者は、早めに準備しましょう。
東京都中小企業振興公社:インキュベーション施設整備・運営費補助事業
「インキュベーション施設整備・運営費補助事業」は、東京都が手掛ける「インキュベーション施設運営計画認定事業」により認定を受けると、必要な経費へ補助が受けられる制度です。
施設運営計画の認定を受けた民間事業者が、インキュベーション施設の構築や整備に取り組む上で必要な経費について、審査に通ると補助金が支給されます。
必要経費とは、施設の整備や改修費、運営費用などで、個室の整備やインキュベーション施設マネージャーの雇用、セミナーや勉強会の開催などに利用できます。入居者への支援の幅を広げるためにも有効な制度です。
松戸市:インキュベーション施設卒業企業支援補助金
千葉県松戸市では、インキュベーション施設「松戸スタートアップオフィス(MSO)」の利用契約期間の終了後に、市内で事業を続ける事業者に対して必要な費用の一部を支給する制度です。施設の改修工事費や施工管理費用などの改修費と、新しいオフィスの賃料が対象で、それぞれにおける補助率や補助上限額が以下のように決まっています。
- 改修費:補助率50%、上限額100万円
- 賃料:補助率50%、上限額120万円
MSOで1年以上の利用があり、契約終了から半年以内に事業所を開設するなど、細かく条件が決まっています。審査に通ると、スムーズに新しいオフィスを設置して効率的に事業を継続できます。
久喜市:インキュベーション施設整備補助金
埼玉県久喜市では、市内の空き店舗を改修したインキュベーション施設を開設する際に利用できる補助金制度があります。建物の改修工事や設備費、広告宣伝費などの必要経費のうち、最大3分の2、上限500万円まで支援が受けられます。
補助金の対象となる店舗は最寄り駅から半径300m以内と指定されており、駅近で利便性が高い施設としてアピールできます。
インキュベーション施設以外のビジネス拠点の選択肢
インキュベーション施設以外にも、創業時やスタートアップに使える拠点は多数あります。ここでは、起業時に便利な施設の種類ごとに特徴を紹介します。都市部を中心に、全国各地にさまざまなビジネス向けスペースがありますので、新しい拠点を検討する際に参考にしてください。
賃貸オフィス
賃貸オフィスとは、定期や普通などの賃貸借契約を結んで借りるオフィスです。レンタルオフィスなどの他の形態と比べると坪単価が低めな上、取引先や金融機関からの信用が得られやすいでしょう。ただ、初期費用が高額になりやすく、物件のみの契約なので家具や内装は一から自分で設置する必要があります。
メリット
- 同じ賃料でもレンタルオフィスより広い場所を借りられる
- 2年など長期契約が基本で社会的信用が得られやすい
- レイアウトやデザインを一から構築できる
デメリット
- 保証金や敷金など初期費用が高い
- 家具や什器などの費用が発生する
- 立地の良い物件は見つかりにくい
バーチャルオフィス
バーチャルオフィスとは、物理的な入居なしに住所や電話番号だけを借り受けるタイプです。レンタルオフィスのワークスペースを取り除いた形態で、ビジネスに最低限必要な情報だけを利用できます。基本的には、郵便物や電話の転送サービスが付帯しています。
メリット
- 初期費用を抑えられる
- 一等地での登記も可能で、ブランディングや信用力アップに効果的
- 会議室やワークスペースなどのオプションもあり
デメリット
- 公的証明として利用できない場合がある
- 物理的な拠点がなく、来客や会議での柔軟対応が難しい
- 転送の受け取りにタイムラグが生じる
シェアオフィス/コワーキングスペース
シェアオフィスとコワーキングスペースには明確な線引きはなく、共通点が多いため同様の形態として扱われます。両社とも複数の利用者がフリーアドレス形式で使用するオフィスタイプです。
賃貸オフィスのように個別の占有スペースはありませんが、その分便利な立地でリーズナブルに利用できます。近年は育児スペースやカフェなど設備が充実している拠点も多く、フリーランスやノマドワーカーのスポット利用にも向いています。
メリット
- 初期費用やランニングコストを節約できる
- 駅前など立地条件の良い物件が多い
- 利用者同士で交流しやすい
デメリット
- 機密情報の漏えいなどセキュリティ対策に注意が必要
- 話し声や物音に妨げられるリスクがある
レンタルオフィス
レンタルオフィスは、ビジネス利用に必要な設備が用意されているオフィスを借りるスタイルです。個人での作業に適した個室から、シェアオフィスのような大部屋までさまざまな種類があります。内装や什器、家具、通信インフラなどオフィス新設に必要な環境が整えられており、入居後すぐにオフィスとして利用できます。
時間単位での利用などプランが豊富なため、希望時間だけ無駄なく使えます。全国の各拠点を割引価格で使えるシステムがあるところは、出張が多いビジネスマンにも適しています。
メリット
- 賃貸オフィスよりも総合的に見て初期費用やランニングコストを抑えられる
- 法人登記できる物件が多い
- 部屋タイプや料金プランが充実
- スピーディな入居が可能
デメリット
- 使い方やオプションによっては他のオフィスタイプより割高
- 運営事業者の都合で退去や契約解消を突然言い渡される可能性も
最後に:インキュベーション施設やレンタルフィスを活用してビジネスを軌道に乗せよう
インキュベーション施設は、公的機関や大手企業が運営する起業家支援を目的としたオフィスです。低料金で借りられ、インキュベーターへの経営相談など創業間もない企業に必要なサポートが受けられます。全国各地のインキュベーターオフィスを探してみましょう。
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