会社を設立する際には、株式に関する事項を決める必要があります。発行可能株式総数は、株主総会の決議不要で発行できる株式数のことで、ルールに沿って決定し、定款に記載するよう定められています。
本記事では、発行可能株総数の決め方や注意点、定款に記載する理由などについて解説します。発行可能株式総数について理解を深め、会社設立を検討するためにぜひご覧ください。
発行可能株式総数とは
発行可能株式総数とは、株主総会の決議なしで株式会社が発行できる株式の総数のことです。定款(ていかん)の絶対記載事項であり、登記事項でもあるため、会社設立時にルールに沿って決定し、記載する必要があります。
発行可能株式総数を超えて株式を発行することも可能ですが、発行が必要な場合は株主総会の特別決議によって定款の変更を行います。
将来的な資本金の増加目標に応じて、発行可能株式総数を設定するのが一般的です。なお、発行可能株式総数は、会社が発行できる株式数の上限とは異なる定義であるため、混同しないよう注意が必要です。
そもそも株式とは
そもそも株式とは、会社が事業に必要な資金を調達するために発行する証券のことです。会社から株式を購入し、所有している出資者は株主と呼ばれ、会社のオーナーの1人となります。
株主には、会社から配当を受け取る権利を持つ「自益権」と、会社の経営に参加できる「共益権」の2種類の権利を所有しています。自益権は、所有株式数が多いほど配当金額が大きくなることです。共益権は、株主総会の議決権、取締役の違法行為に対する差止請求権が株主に与えられていることを指します。
1株あたりの金額の決め方
株式について、1株あたりの金額を設定する明確なルールはなく、基本的には会社が自由に金額を設定できます。一般的には、1株5万円または1株1万円に設定する会社がほとんどです。1株5万円の設定は、旧商法での額面株式の下限が5万円だったことに由来しています。1株1万円は、金額がわかりやすいという理由で採用されています。
株価を高く設定すると、1株あたりの調達資金は多くなりますが、出資のハードルも上がります。反対に、株価を低く設定すると出資には有利ですが、経営権を握られるリスクがあるため注意が必要です。
なお、スタートアップなどでは、将来の株式分割を見据えて比較的高めに株価を設定することもあります。株主の設定金額を決める際には、専門家に相談するとスムーズです。
株式の譲渡制限とは
株式の譲渡制限とは、株式会社における株式の譲渡(売買取引)に制限を課すルールです。発行可能株式総数に関する決まりは、株式の譲渡制限の有無によって変わります。譲渡制限を定める場合、定款に「株式譲渡には株主総会の承認が必要」と記載します。
株式譲渡制限を設けることで、相続時の株式分散を防ぎ、不都合な人物への株式移転を阻止することにつながります。また、取締役会の設置が不要になるため、会社設立の手間を省けます。さらに、取締役と監査役の任期を最長10年まで延長できる点もメリットです。
発行可能株式総数を定款に記載する理由
発行可能株式総数を定款に明記するよう決められている背景には、会社経営や相続をスムーズにする目的があります。ここで、発行可能株式総数を定款に記載する主な2つの理由について解説します。
迅速な資金調達の実現
発行可能株式総数を適切に設定することで、機動的な資金調達が可能になります。創業時など変化スピードの速い時期には、思わぬタイミングでビジネスチャンスが訪れることも考えられます。
発行可能株式総数の範囲内であれば、取締役会の決議だけで新株を発行できるため、必要なタイミングで素早くアクションを起こせます。将来的な事業計画に沿って、余裕のある発行可能株式総数を設定することで、増資による経営促進につながります。
権限の濫用防止
発行可能株式総数の設定は、取締役会の権限濫用を防止する役割も担っています。発行可能株式総数が決まっていないと、闇雲に株式が発行されて既存株主の持株比率が変動し、既存株主の権利が不当に侵害されるリスクがあります。
そして、株主に不利益が生じる可能性も考えられます。定款において発行可能株式総数を設けることで、取締役の権限を適切に制限でき、既存株主の保護を図ることが可能です。
発行可能株式総数の決め方
発行可能株式総数の決め方は、株主を公開するかしないか、つまり非公開会社か公開会社かによって異なります。それぞれにおける発行可能株式総数の決め方を見ていきましょう。
非公開会社の場合
非公開会社では、発行可能株式総数に法的制限はなく、自由に決めることができます。
発行可能株式総数を考える際には、まず1株当たりの価額を決めます。前述の通り、一般的には1株5万円または1株1万円が多いですが、非公開会社ではそれ以上の金額に設定することも可能です。
次に、資本金額と1株当たり価額から、実際に発行する株式数を算出します。例えば、資本金100万円、1株5万円の場合、発行株式数は以下の通りです。
発行株式数 = 100万円 ÷ 5万円 = 20株
将来的に増資の可能性がある場合、実際の発行株式数の10倍程度と多めに設定するケースもあります。将来の増資手続きの手間も考慮して、発行可能株式総数に余裕を持たせておくと良いでしょう。
公開会社の場合
公開会社の発行可能株式総数には、法的な制限が課されています。定款変更後の発行可能株式総数は、変更時点の発行済株式総数の4倍を超えることはできません。例えば、発行済株式数が20株の場合、発行可能株式総数は80株(20株×4倍)が上限です。
発行済株式数の4倍未満であれば、公開会社でも自由に発行可能株式総数を設定できますが、将来的な増資を考慮して、上限に近い数値が推奨されます。
発行可能株式総数を決める際の注意点
発行可能株式総数を適切に設定するために、いくつかのポイントがあります。
まず、余裕を持たせて発行可能株式総数を決定しましょう。余裕が少ないと、新規株式発行の自由度が低くなります。また、将来増資を行う際に、発行可能株式総数を変更する手間がかかります。
発行可能株式総数の変更には、株主総会の特別決議(3分の2以上の賛成)が必要です。株主総会の決議不要という発行可能株式総数のメリットが少なくなってしまうため、手続き負担を軽減するためにも余裕のある設定を意識しましょう。
また、将来の資金調達計画を想定し、必要となる増資規模を見積もる必要があります。発行可能株式総数が多すぎる場合、既存株主の持株比率が希薄化するリスクが出てきます。将来的な事業成長や拡大計画を踏まえて発行可能株式総数を設定しましょう。
発行可能株式総数を適切に設定するために専門家に相談しよう
発行可能株式総数とは、株主総会の決議なしで株式会社が発行できる株式の総数のことです。発行可能株式総数を定款に定めることで、スピーディな資金調達の実現や権限濫用の防止といった効果が期待できます。
発行可能株式総数の設定は単なる形式的な手続きではなく、将来の事業展開や資金計画を踏まえ、既存株主への影響にも考慮した上で慎重に決めることが大切です。会社設立時には、さまざまな決定事項があるため、必要に応じて専門家に相談しながら進めましょう。
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