労働力不足が慢性化している現代、収益性の高い人材紹介事業は、独立開業の選択肢としても注目されます。参入障壁が低いと言われるものの、人材紹介を始める際には免許の取得など満たすべき要件があり、計画的に準備を進める必要があります。
本記事では、人材紹介の開業要件や人材派遣との違い、事業許可申請の流れなど、人材紹介事業を立ち上げる上で欠かせない情報を網羅しています。人材紹介での開業を検討する上で、ぜひ参考にしてください。
人材紹介(有料職業紹介事業)と人材派遣の違い
まず人材紹介事業は、正式には「有料職業紹介事業」と呼ばれます。職業安定法において、求人企業と求職者の仲介役として、雇用関係の成立を斡旋することが事業内容です。
人材紹介と同じ方向性の事業として「人材派遣」があります。人材紹介と人材派遣は、いずれも企業と求職者の間に入りますが、人材紹介が企業への人材紹介や採用支援を担うのに対し、人材派遣では企業の依頼業務に適したスタッフを派遣することが仕事です。
人材紹介では、雇用関係は企業と求職者で成立しますが、人材派遣では、人材派遣会社と派遣スタッフが雇用関係を締結し、勤務先企業にスタッフが派遣されます。
また、報酬としての手数料の考え方も異なり、人材紹介では採用された場合の初年度理論年収の約3.5割ですが、人材派遣ではスタッフの時間単価と実働時間数により算出されます。
人材紹介は厚生労働省の需給調整課管轄の「国許認可事業」であるのに対し、人材派遣は厚生労働大臣から許可を得た「労働者派遣事業」を行う事業者です。また、派遣スタッフの労働条件については、労働者派遣法によって定められています。
人材紹介4つの開業要件
人材紹介事業は、先述の通り厚生労働省が管轄する国許認可事業であり、開業するにあたって免許の保有などの要件を満たしている必要があります。ここでは、人材紹介で開業するための以下4つの要件について詳しく解説します。
- 有料職業紹介事業の許可申請
- 財産
- 事業所のスペース
- 個人情報の管理
人材紹介の開業要件①有料職業紹介事業の許可申請
人材紹介を開業する際には、「職業紹介責任者」の在籍が必須です。有料職業紹介事業の許可申請は、法人・個人問わず1事業所に1名、職業紹介従事者の50名あたり1名以上在籍することが定められています。
また、職業紹介責任者に関して満たさなければいけない基準としては、以下があります。
- 3年以上の就業経験がある成人である
- 5年以内に職業紹介責任者講習を受講し、受講証明書を発行されている
職業紹介責任者になると、企業や求職者からの問い合わせ対応やクレーム処理、職業安定機関との連絡調整などさまざまな職責が発生します。常駐常勤が原則で、兼業で担うことは難しいでしょう。
人材紹介の開業要件②財産
財産要件が条件を満たしていることも重要です。財産要件としては、まず「基準資産額」は500万円以上と定められています。基準資産額は「資産総額から負債総額、営業権、繰延資産を差し引いた残額を指します。
次に、自己名義の現金・預金が150万円以上である点も満たしている必要があります。法人・個人によらず共通で、事業所が2つ以上ある場合は1事業所あたりの金額が変わります。
人材紹介の開業要件③事業所のスペース
人材紹介事業の拠点となる事業所(オフィス)にも要件があります。事業所に関する主な要件は、以下の通りです。
- 企業や求職者個人のプライバシーを確保しつつ、対応が可能なスペースの設置
- 開設される立地や場所が適切(公序良俗に反する風俗営業などの施設がない)
- 職業安定機関やその他公的機関と誤認されにくい事業所名
※ただし、以下のいずれかによっても、1番目の要件を満たしているものと認める
- 予約制や貸部屋などにより、企業や求職者と同室にならず対面の職業紹介が可能
- インターネットにより対面を伴わない職業紹介が可能
近年、オンライン専門の人材紹介会社も増えていますが、対面とオンラインの両方を予定している場合は、対面用オフィスの要件が適用されます。
オープンスペースは個人情報が守られるとは言えず、面談スペースにはできないため、個室など完全に区分けされたスペースが必須です。パーティションで区分する際には、高さ約180cm以上の間仕切りが望ましいでしょう。
なお、レンタルオフィスでも免許申請が可能となっていますが、オフィスの広さや面談スペースのレイアウト、デザインなどに注意が必要です。また、バーチャルオフィスによる申請は認められていません。
人材紹介の開業要件④個人情報の管理
人材紹介は多くの個人情報を取り扱うため、適正な情報管理が重要です。2022年10月の職業安定法改正における許可基準にて、「個人情報を適切に管理し、及び求人者、求職者の秘密を守るために必要な措置が講じられていること」と定められています。
具体的には、以下の項目が追加されています。
- 個人情報がどのような目的で使用されるか具体的に求職者などに明示すること
- 個人情報は本人の同意のもと、本人から直接収集すること
- 本人の同意を得る際には、求職者等が適切な判断ができるよう具体的かつ詳細に明示すること
- 必要な範囲を超えて個人情報を使用することに対する同意を、職業紹介の条件にしないこと
個人情報を扱う従業員を明確にし、情報共有に線引きをするとともに、業務と関係のない個人情報は廃棄するなどの対策が必要です。
事業所所在地とは?届け出る際などの注意点も解説 | Re:ZONE
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人材紹介事業許可申請の流れ
人材紹介事業の開業に必須である「職業紹介責任者」の免許取得について見ていきましょう。
人材紹介の許可申請手数料
「職業紹介責任者」の許可申請に必要な手数料は下記の通りです。
- 職業紹介責任者講習費用:8,800円〜12,500円(会員・非会員などにより異なる)
- 登録免許税:90,000円
- 登録手数料:50,000円
上記に加えて、事業所が増える場合、1事業所に18,000円が追加でかかる点に注意しましょう。申請を出して万が一許可が下りなくても、登録手数料は返金されないため、しっかりと準備した上で申請することが大切です。
人材紹介の許可申請必要書類
人材紹介の許可申請における必要書類は、以下があります。
- 有料職業紹介事業許可申請書:3部(正本1部、写し2部)
- 有料職業紹介事業計画書:3部(正本1部、写し2部)
- 届出制手数料届出書部:3部(正本1部、写し2部)(上限制手数料による場合は不要)
- 添付書類(登記簿謄本、納税証明書など):2部(正本1部、写し1部)
添付書類の種類は多いため、厚生労働省のホームページなどで申請前に確認しましょう。
免許取得までの流れ
人材紹介免許取得まで、概ね3ヶ月ほどの期間を要します。準備から手続き完了までのおおまかな流れとスケジュールを以下に示します。
- 許可基準のチェック(1日)
- 職業紹介責任者講習会の受講(1日)
- 申請書類の作成・準備(数日~1週間)
- 労働局にて事前確認(半日)
- 免許申請(1日)
- 審査(1日)
- 事務所の現地調査(1週間)
- 有料職業紹介許可証交付(2~3ヶ月)
- 人材紹介事業の営業スタート
免許の取得日は毎月1日であることを踏まえると、許可がおりるのは最短で書類申請後の翌々月末です。許可が通らない場合、再申請は可能ですが、事業開始まで時間が延びてしまうため入念に準備した上で申請しましょう。
まとめ:人材紹介の開業ではオフィスの要件に注意しよう
人材紹介の開業要件は、「免許」「財産」「事業所」「個人情報の管理」の4つです。中でも「職業紹介事業責任者」免許の取得は最も重要な要件であるため、丁寧に準備を進めて計画的に申請する必要があります。
また、オフィスに関してはプライバシーを保護できるスペースの設置など細かな条件も設定されています。
業種やビジネスの形態に応じた契約のご相談も承っておりますので、下記より詳細をご覧いただき、お気軽にお問い合わせください。