複式簿記は、事業の財務で必須となる簿記の記帳方法の1つです。確定申告の青色申告で、控除を受けるためには複式簿記を選ぶ必要があります。ただ、単式簿記と違って記帳方法が特殊で複雑なため、正しい知識をもって日々の記帳を行うことが大切です。
本記事では、複式簿記の概要から単式簿記との違い、青色申告での必要性、記帳のポイントまでわかりやすく解説します。簿記についての知識がなくても複式簿記を始められる方法も紹介しますので、日々の経理業務や確定申告に向けてぜひお役立てください。
複式簿記とは
簿記とは、経営活動における財産の増減や出納などについて、記録・整理する業務のことです。複式簿記は、簿記業務の種類の1つで、企業や事業におけるお金のやり取りを「取引」と見なし、取引ごとに左側の「借方」と、右側の「貸方」の2つに分けて記録します。
このシステムは、「すべての取引が最低2つの勘定科目に影響を与え、一方が増加する場合、もう一方が同額だけ減少する、または他の勘定科目が同額増加する」という原則に基づいています。
借方と貸方に分けて記録することは「仕訳」と呼ばれます。仕訳をすることで取引を原因と結果の2方向から捉えられ、取引の詳細だけでなく、お金の動きや儲けの増減まで簡単に把握することが可能です。
複式簿記は正確な会計記録の要件を満たす
なお、複式簿記は、企業が会計業務を行う上で従うべきルールである「企業会計原則」の一般原則「正規の簿記の原則」の要件を満たしています。企業会計原則は法律で定められているものではありませんが、すべての企業が従うべき基準として定められており、以下の3つの要件を満たしている必要があります。
正規の簿記の3要件
- 網羅性(すべての取引が漏れなく記録されている)
- 秩序性(秩序のある一定のルールに基づいて記録されている)
- 検証可能性(事後に検証可能な資料に基づいて記録されている)
単式簿記との違い
簿記の種類には、複式簿記と単式簿記の2種類があります。単式簿記とは、複式簿記を簡略化し、取引の記録を1つの科目のみで記録する形式です。家計簿のように、収入と支出のみを記録するため、簿記に関する知識は不要で、複式簿記よりもシンプルでわかりやすい点がメリットです。
ただし、収入や支出の詳細な内訳は記録しないため、具体的な情報を把握しにくい可能性があります。
一方、複式簿記は、収入と支出だけでなく、資産や負債の増減も含めて二重に記録する簿記の形式です。取引を「借方」と「貸方」の2方向から記録することで、資産、負債、資本の増減を正確に追跡できます。
記載項目が多く、簿記の基本的な知識が求められるため、単式簿記に比べてハードルが高いと思われがちですが、会計の精度と透明性が保証されています。
複式簿記と貸借対照表との関係
複式簿記は、決算書の1つである「貸借対照表(B/S)」と同じ考え方を基に作られています。貸借対照表とは、期末時点における企業の資産や負債、純資産を記した書類です。
複式簿記と同様に、左側に資産、右側に負債と純資産を記入し、左側の合計金額と右側の合計金額は必ず一致するように作られています。貸借対照表を分析することで、出入りしたお金の金額に加えて、取引先などの詳細も把握できます。
複式簿記は青色申告で必須
個人事業主や副業などで一定の収入を得た場合、確定申告をする必要があります。青色申告で65万円(e-tax以外の場合55万円)の青色申告特別控除を受けるためには、複式簿記による帳簿作成が必須です。
単式簿記での控除もありますが、最大10万円と金額は低くなります。また、青色申告を選ぶことで、65万円の控除以外にも赤字の繰越などの節税メリットが用意されています。
青色申告で複式簿記が推奨される理由として、資産・負債・純資産の変動を正確に把握しやすくなる点や、収入と支出の全体像を捉え、適切な税額を簡単に計算できる点などが挙げられます。
複式簿記のメリット
複式簿記のメリットとして、以下の点が挙げられます。
- 財務諸表を適切に作成できる
- 正確な会計記録を保てる
- 控除額が高額になる
財務諸表を適切に作成できる
複式簿記で帳簿を付けることで、貸借対照表や損益計算書といった財務諸表を適切に作成できます。複式簿記では、仕訳により財務諸表の作成に必要な情報をまとめられるため、事業の健全性や財政状態を基に今後の経営方針を立てやすくなります。
正確な会計記録を保てる
複式簿記を使うことで、会社の状況や資産などを正確に把握できます。単式簿記に比べて記載項目が多い分、日々の取引を仕訳を使ってわかりやすくまとめられるため、お金の流れや使い道、支払先などをすぐに把握できる状態を保てます。
控除額が高額になる
前述の通り、複式簿記での記帳は、確定申告における青色申告特別控除を受けるための要件です。青色申告による控除は最大65万円(e-tax以外の場合は55万円)ですが、単式簿記を選ぶと最大10万円までしか控除されません。節税メリットを得るためにも、複式簿記が必須です。
複式簿記のデメリット
複式簿記で記帳することによるデメリットとして、以下が考えられます。
- 簿記知識が求められる
- 手間と時間がかかる
簿記知識が求められる
複式簿記は、初めて作成する場合や簿記の知識がない初心者にはわかりにくい部分もあります。複式簿記を作成するためには、貸借対照表と損益計算書の作成方法や、資産・負債・純資産・収益・費用の5つの分類などの知識が必要です。
また、帳簿には取引を仕訳し、借方と貸方に分けて記載するため、仕訳のルールも覚える必要があります。
手間と時間がかかる
複式簿記では、仕訳の手間と時間を要します。事業に関して発生する水道光熱費や家賃、通信費などの経費を個別に分け、適切な勘定科目に割り振り、支払い方法として現金やクレジットカードなどに振り分ける必要があります。
また、原則として、借方と貸方の合計金額は一致させる必要があるため、数値が違ってしまう場合はどこが間違っているか探すのに苦労する可能性があります。確定申告や決算の作業負担を軽減するためにも、日頃から帳簿付けを行っておくと良いでしょう。
複式簿記を記帳する際のポイント
複式簿記に必要な知識を得るためには、簿記3級レベルの勉強をすると良いでしょう。また、商工会議所などでも簿記の講習が開催されているため、参加することもおすすめです。
今では、多数の会計ソフトが登場しており、利用することで複式簿記の作成を自動化できます。簿記の知識がなくても、支出と入金を設定するだけで貸借対照表や損益計算書に自動で反映してくれるため、確定申告の際も効率的です。
複式帳簿を正しく理解して財務に役立てよう
複式簿記は、事業におけるお金の流れや資産・負債などの現状を正確に把握するために役立つ決算書です。勘定科目の入力など単式簿記よりも記載する情報は多いですが、企業の経営状況の把握や意思決定に役立つ重要な書類でもあります。また、確定申告で青色申告特別控除を受けるためには、複式簿記が必須です。
慣れるまでは複雑に見えるかもしれませんが、一度覚えればスムーズに作成できるはずです。日常的に記帳を習慣化しながら、帳簿付けに慣れていくと複式簿記の見方を理解できます。複式帳簿を正しく使いこなし、財務管理に役立てましょう。
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