税理士など会計関連の資格を持っている人や、会計事務所での業務経験者の中には、会計事務所の開業を検討する人もいるでしょう。会計事務所を設立する際には、法律や事務所の仕組みなどの理由から、一般の法人や事務所とは異なる手順を踏むケースが多く見られます。
本記事では、会計事務所の開業手順や費用、成功するポイントなどを解説します。会計事務所を開業するための基本情報をまとめていますので、ぜひお役立てください。
会計事務所の開業とは?一般的な会社設立との違い
会計事務所を開業する背景には、税理士や公認会計士などの資格に合格し、将来的に独立を計画していたケースが挙げられます。また、現在所属している事務所の閉鎖や転職、やりたいことの方向性が明確になったタイミングなどに、独立開業に踏み切る人も少なくありません。
一般の企業や事務所の設立と違って、会計事務所を開業するには一定の資格要件を満たす必要があります。
会計事務所の開業と一般的な会社設立との違い
会計事務所の開業と一般企業の設立では、主に以下のような違いがあります。
- 資格要件(税理士会への登録)
- 開業時に提出する書類
- 業務範囲
一般企業を設立するのに特別な資格は不要ですが、会計事務所の開業は税理士または公認会計士の資格を取得し、日本税理士会連合会(日税連)の税理士名簿に登録する必要があります。税理士は国家試験に合格するか、一定の実務経験を経て資格を取得することが可能です。
また、税務署以外に、税理士会へ必要書類を提出するため、一般的な独立開業に比べて手続きに時間を要する可能性があります。
さらに、会計事務所では、税務申告や会計監査、経営コンサルティングなど業務範囲が法律で定められています。税務代理や税務相談業務など、税理士資格を持つ者のみが行える独占業務も含まれます。
税理士の開業後の平均年収
厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、税理士の全国平均年収は746.7万円です。この数値には公認会計士も含まれていることを踏まえると、所属税理士の平均年収は約500〜600万円、取締役に相当する社員税理士では約900万円と考えられます。
開業税理士の平均年収は2,000~3,000万円程度とされますが、個人差が大きいため、年収の幅は大きい傾向があります。一般的には、事務所や企業に所属するより独立した方が年収は高くなると言われますが、一概に言えず、収入にはばらつきがあるでしょう。
会計事務所開業の流れと準備
会計事務所の開業の主な流れを紹介します。一般企業の設立とは異なる部分があるため、事前によく確認した上で始めることが重要です。
1. 税理士資格の取得
会計事務所を設立するためには、税理士または公認会計士として登録する必要があります。税理士になるには、税理士試験に合格し、2年以上の実務経験を積むのが一般的な方法ですが、税理士試験に数年かけて合格する人も珍しくなく、しっかりと試験対策を行う必要があります。
2. 下積みと税理士登録の申請
税理士試験の合格後すぐに日税連の税理士名簿へ登録できるわけではなく、実務経験が求められます。実務経験と認められるのは、租税または会計に関する事務のうち、所定の業務に従事した経験が通算2年以上必要です。そのため、税理士試験に向けて勉強する傍ら、会計事務所などに勤務して実務経験を積む方法が一般的です。
税理士試験に合格し、実務経験の要件を満たしたら、日税連へ税理士名簿の登録を申請します。日本税理士会連合会の税理士登録申請書と、他の必要書類を添付して提出します。その後、登録申請書が受理され、申請エリアの税理士会で面接や調査が行われた後で、税理士名簿に登録されます。
3. 開業資金の準備
税理士としての下積みを積みながら、開業に向けて資金を準備しておくとスムーズです。開業時には、オフィスの敷金・礼金、什器やOA機器などを用意するためにある程度の資金が必要になります。また、名刺やWebサイト開設、税務ソフトの料金などさまざまなコストが発生するため、計画的に貯めていくと良いでしょう。
4. 事務所の開設
開業資金が用意できたら、事務所設立の具体的な準備に取り掛かります。事務所の賃貸契約や備品の購入など、円滑に活動を始められるように計画的に行動することが重要です。
開業エリアは、マーケットや顧客、競合となる他の事務所などのデータを分析した上で決めると良いでしょう。例えば、東京や大阪などの都市部では競争が激しいですが、地方ではニッチな市場を狙うことができます。
また、他の会計事務所のホームページを見ながら、自分のライバルになりそうな事務所などをチェックすると、開業後の集客や営業戦略をスムーズに進めやすくなります。
会計事務所の開業資金はいくら?目安と内訳
会計事務所の開業費用は、事務所の規模や開業スタイルなどによって異なります。開業に必要な主な費用は、以下の通りです。
- 税理士登録費用(登録免許税と登録手数料)
- 税理士会費用
- 会計ソフト代
- IT環境整備費用(OA機器、インターネット通信、Webサイト開設費用など)
- 広告・マーケティング費用
- オフィス費用(敷金・礼金・家賃、オフィス家具、什器、備品など)
税理士登録には、登録免許税(60,000円)と登録手数料(50,000円)がかかります。決められている納付方法に従って支払いましょう。また、所属する地域の税理士会ごとに異なる会費を納める必要があります。一例として、東京税理士会の金額は以下の通りです。
- 入会金:40,000円
- 会館建設費:20,000円
- 年会費:81,000円
また、税務管理用の会計ソフトやインターネット通信費用、Webサイトを開設する必要なども発生します。効果的な集客のためには広告マーケティングを実施した方が良い場合もあります。
オフィス賃料は、都市部と地方など地域によって大きく異なります。コストを抑えるためには、自宅開業やコワーキングスペースを利用するという選択肢も検討しましょう。
会計事務所の開業スタイル|賃貸・レンタルオフィス・自宅
会計事務所を開業する場所は、一般的な事務所やオフィス以外にも、自宅やレンタルオフィスなどを利用する方法があります。開業スタイルを選ぶ際のポイントとして、以下の点に注目しましょう。
- 賃貸オフィス・事務所:社会的な信用度が高く顧客から好印象だが初期コストがかかる
- 自宅:初期費用がかからないが、プライベートの区別や住所など個人情報の公開が必要
- レンタルオフィス:低コストで整った環境に入居できる、大勢の人が出入りする分安全対策も必要
事務所を借りることで、顧客や金融機関からの信用が得られやすく、高いセキュリティを確保できるといったメリットがあります。ただ、保証金や賃料の前払い、仲介手数料などトータルで家賃の8ヶ月分ほどの初期費用がかかります。
開業時のコストを抑えたい場合は、自宅事務所やレンタルオフィスも検討すると良いでしょう。自宅事務所は、賃貸の申し込みや審査などが省かれるため、より短期間で開業できる可能性があります。ただ、プライベートや家族時間との区分があいまいになりやすく、住所情報を公開しなければならないなどの不便も考慮が必要です。
レンタルオフィスやコワーキングスペースを利用する場合、賃貸契約よりも初期コストを抑えられる上、オフィスとして整備された環境にすぐ入居可能です。
税理士として会計事務所の開業を成功させよう
会計事務所を開業するためには、一般的な企業や事務所の設立とは異なる手続きが必要です。税理士試験に合格し、実務経験を経て資格登録を行うとともに、登録手続きを進めながら計画的に開業資金を確保する必要があります。
また、開業に必要な資金は、希望する開業スタイルによっても異なります。今回紹介した開業資金の目安も参考に、会計事務所の開業と事業成功に向けて準備を進めましょう。
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